離婚の基礎知識(5)
最終更新日:2017/07/16
慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償金ですので、離婚の場合は、離婚原因を作った側が支払う金銭などをいいます。したがって、性格の不一致や離婚原因が夫婦双方にある場合など、どちらに責任があるともいえない場合には請求することはできません。
離婚の慰謝料は、厳密に言えば、不貞やDVなどの離婚原因に該当する個々の行為の慰謝料(離婚原因慰謝料)と、離婚をしたこと自体の慰謝料(離婚慰謝料)に区分されますが、実務上は、これらを明確には区別せず、離婚の慰謝料としています。
慰謝料の算定については、裁判などでは離婚原因となった行為の内容、苦痛の程度、婚姻期間の長さ、年齢、職業、子供の数、相手方の収入など、当事者のほとんどの事情を総合的に考慮して金額が決められ、一般的には不貞や暴力などによって離婚を余儀なくされた場合は金額も高くなる傾向があるようです。
協議離婚の場合は、慰謝料の金額や支払方法などは夫婦間の協議によって定めることになりますが、慰謝料は養育費とは違い、後々になって事情の変更を理由に金額の変更請求ができるようなものではありませんので、金額については慎重に合意しましょう。
一括払いで慰謝料を支払ってもらうとき(または支払うとき)は、金銭を受領したことを明記した書面(離婚協議書や合意書、公正証書など)を必ず作成するようにしましょう。
その理由は、例えば慰謝料として50万円の支払いを約束し、離婚協議書や合意書などを作成しないで支払ってしまった場合、後日、相手から「受け取っていない」「約束した金額は100万円だった」「あれは慰謝料として受け取ったわけではない」などと言われるかもしれません。
こういった場合に「慰謝料として一括で50万円支払って、相手は受領した」ことと「清算条項」を記載した書面を作成していれば、こういったトラブルを防ぐことができます。
当事者間で金額の合意ができれば、その支払いは一括払いが理想ではありますが、一括払いが不可能なときは、以下のような分割払いの方法があります。
慰謝料の支払いを分割払いで合意した場合は、取り決めた内容は必ず公正証書(強制執行認諾条項付)にしておきましょう。公正証書にすることで、支払いが滞ったときに裁判を経ることなく直ちに強制執行することができますので安心です。
慰謝料の支払いを分割にした際は「懈怠約款(期限の利益喪失約款や遅延損害金約款など)」を付けるのが一般的です。特に「期限の利益喪失約款」を付けておかないと、分割金の支払いが滞った場合、すでに支払期限が到来した分しか強制執行ができないことになりますので忘れないように合意しましょう。
離婚後に慰謝料を請求するには、家庭裁判所に慰謝料請求調停を申立てることになります。ただし、基本的に慰謝料請求は離婚成立後3年で時効となりますので、離婚後に請求する場合は注意が必要です。
離婚に関する慰謝料には2つの種類があり(上記「慰謝料とは」参照)、「離婚慰謝料」は離婚成立時から時効が開始します。もう1つの「離婚原因慰謝料」は個々の行為時から時効が開始します。
なお、「離婚原因慰謝料」の時効の完成については、民法159条(夫婦間の権利の時効の停止)に注意する必要があります。
夫婦関係の破綻の原因が第三者にある場合、その第三者に慰謝料の請求をすることができます。
その多くは不貞相手に対する慰謝料の請求になりますが、その他にも配偶者の親族との問題(いわゆる嫁姑問題など)が夫婦関係の破綻の原因になった場合は、その親族に対して慰謝料を請求できることがあります。
例えば、夫が妻以外の女性と性的関係を持てば、妻は夫だけではなく不貞相手の女性に対しても慰謝料の請求をすることができます。不倫相手の女性に慰謝料を請求できるのは、不貞行為は共同不法行為となるためです。
つまり、不倫をするには1人ではできず、必ず不倫する相手がいますので、夫と不貞相手の女性は一緒になって妻に不法行為(平穏な家庭生活を営む権利の侵害)をしたということになり、女性は夫とともに妻に対して不貞行為の損害賠償責任を負います。
ただし、不貞行為が始まった当時、すでに夫婦関係が破綻していた場合や、夫が既婚者であることを不貞相手の女性は知らなかった、あるいは夫が女性に対し独身であると嘘をついていた場合などは慰謝料の請求ができません。
不貞相手に慰謝料の請求をする場合は、当事者同士で話し合うか、あるいは弁護士を代理人として話し合うようにしましょう。話し合いがまとまったら、後日のトラブル防止のために示談書を作成します。話し合いの結果、慰謝料の支払いを分割にする場合は、支払いが滞ったときに備えて、公正証書(不貞行為に基づく慰謝料債務弁済契約公正証書)にするほうが安心です。
(1)期限の利益とは
たとえば「○年〇月末までに5万円支払う」という約束の場合、支払ってもらう側(債権者)はその支払期限が到来するまで5万円を請求できません。
逆にいえば、支払う側(債務者)はその支払期限まで5万円の支払いをしなくてもよいというメリット(利益)があり、これを「期限の利益」といいます。つまり「期限の利益」とは債務者側のメリットということになります。
(2)期限の利益の喪失約款
慰謝料を分割払いで合意した場合、本来、一括で支払うべきお金を複数回に分けて支払ってもよいという合意をするわけですから、たとえば慰謝料100万円を毎月5万円ずつ20回払いにしたときは、1回支払いが滞ったときに債権者が請求できるのは遅れた分の5万円のみであって、まだ支払期限がきていないものについては請求できません。
たとえどんなに信用がなくなってしまったとしても、残金を一括で支払ってくれと言うことはできません。そこで、分割払いの合意をする際に、その支払いを1回でも怠ったときは直ちにその時点での残額(あるいは残額と遅延損害金)を一括で支払うなどの合意をすることができます。この合意条項を「期限の利益喪失約款」といいます。
なお、期限の利益が喪失する事由(上記の「支払いを1回でも怠ったとき」など)は当事者間の話し合いで決めることができます。
(3)当然喪失と請求喪失
期限の利益喪失事由の定め方には①「当然喪失」と②「請求喪失」という2種類のものがあります。この2つの違いは、一定の事由が発生した場合に、①当然に期限の利益が喪失してしまうのか、それとも②債務者に対する請求(催告)によって期限の利益が喪失するのかによるものです。
事由毎に当然喪失事由と請求喪失事由に分けたり、すべて当然喪失事由(または請求喪失事由)にしたりなど、これも当事者間の話し合いで決めることができます。
養育費や財産分与、慰謝料など複数の支払いがある場合に、すべての支払いの振込先口座を一緒にしてしまっているケースがあります。こういったケースは後々問題が生じることがあります。
例えば、養育費として月額3万円、慰謝料として月額3万円の支払い(毎月の支払い合計額は6万円)に合意したにもかかわらず、4万円しか支払ってこなかった(あるいは支払えなかった)場合などです。
この場合、一体どちらの支払いなのか混乱してしまい、また、慰謝料に上記のような「懈怠約款(期限の利益喪失約款や遅延損害金約款など)」が付いている場合は特に問題になります。こういった問題(弁済の充当)は、民法によって解決が図られますが、少々面倒なことになりますので、こういった無用なトラブルを防ぐためにも名目毎に振込先口座を別々にするようにしましょう。
ただし、別々の振込先にする場合、その分だけ手間や振込手数料が増えることから、支払う側に嫌がられることも多々ありますので、どうしても同じ振込先にしなければいけない場合は「充当関係についての合意条項」をしっかり記載しておきましょう。
一般的な慰謝料の条項は、特に慰謝料請求権が発生した根拠(離婚原因)を明記することはありません。しかし、以下のようなことを明確にしたい場合は離婚原因を明記しておくことが考えられます。ただし、法律上、離婚原因を明記しておかなければならないというわけではありませんので、ケースバイケースで明記するかどうか検討するようにしましょう。