離婚の基礎知識(8)
最終更新日:2017/07/16
被用者年金一元化について 平成27年10月1日より、厚生年金保険制度と共済年金保険制度に分かれていた被用者保険は厚生年金保険制度に統一されました(被用者年金一元化)。 従来、年金分割手続きにおいて厚生年金と共済年金の2つの年金がある場合は別々に手続きが必要でしたが、年金が一元化されたことにより、これらの手続きをまとめて行えるようになります。(「年金分割のための情報通知書」は一体化されたものが発行されます)。 |
公的年金は2階建て(「国民年金制度」と「厚生年金保険制度」の2つ)の構造となっており、日本国内に住所のある20歳以上60歳未満の全員が国民年金に加入しなければならず、加入者は以下の3つの被保険者に分類されます。
日本国内に住所のある20歳以上60歳未満の第2号被保険者と第3号被保険者に該当しない人
自営業者・自由業者・農業者・学生など
厚生年金保険制度に加入している人
民間企業のサラリーマン、公務員、私立学校の教職員など
国民年金の第2号被保険者に扶養されている配偶者で、20歳以上60歳未満の人
専業主婦など
国民年金は全国民共通の制度として、全国民が基礎年金をもらえる仕組みになっています。これに対して、厚生年金に加入している民間企業に勤めるサラリーマンや公務員などは、基礎年金に上乗せする形で厚生年金も受け取ることができます。
つまり、会社員や公務員などの厚生年金に加入している第2号被保険者は、1階部分である国民年金と2階部分の厚生年金を受け取ることができるため、国民年金のみの第1号被保険者や第3号被保険者に比べると、その受給額は大きく異なります。
例えば、夫が会社員で妻が専業主婦の場合は、妻は第3号被保険者になりますので、国民年金のみの加入となります。一方、夫は第2号被保険者で国民年金と厚生年金に加入していますので、夫婦それぞれの年金受給額に大きな格差が生じてしまうわけです。
また、厚生年金は月々の給料によって保険料と受給額が変わってきますので、夫婦2人とも厚生年金である場合でも、一般的に夫よりも妻の方が低賃金である(=厚生年金保険料が低い)ため、同じように年金受給額に格差が生じてしまいます。
上記のような年金格差を減らすために、離婚時に厚生年金を婚姻期間に応じて分割する制度が施行されました。この制度が「離婚時年金分割制度」です。原則、離婚した日の翌日から2年以内に請求しなければなりません。
国民年金は分割されません
年金分割は国民年金も含めたすべての年金を分割すると思われている方がいますが、分割の対象となる年金は、婚姻期間中の厚生年金(旧共済年金含む)の報酬比例部分のみとなります。したがって、夫が2階部分をもたない自営業者や自由業者の場合には、その妻は年金分割制度の対象外(年金分割をしてもらえない)となります。
なお、国民年金のほかに、国民年金基金、厚生年金基金、確定給付企業年金、確定拠出年金なども年金分割制度の対象外になりますが、これらのものについては財産分与において考慮することできる可能性はあります。
年金分割とは保険料納付記録を分割する制度です
年金分割とは、婚姻期間中の厚生年金の報酬比例部分の「保険料納付記録」を分割する制度です。つまり、将来年金が支給される際に、年金額の計算に使われる対象期間の標準報酬総額の一部を多い方から少ない方に分割することで、婚姻期間中の年金を夫婦で分ける仕組みになります。
したがって、夫が将来もらえる年金そのものを分割するわけではありませんし、離婚時に分割した年金をすぐもらえるわけでもありません。
※なお、離婚時年金分割制度は、必ずしも夫の年金が妻に分割される制度ではありませんのでご注意ください。本サイトでは、妻が専業主婦である場合や、夫の給料が妻より多い場合を仮定していますので、逆の場合(主夫の場合や、妻の給料が夫より多い場合など)には、妻が年金を分割される立場になります。
年金分割の対象となる期間は婚姻期間だけです
年金分割の対象となる期間は、夫の年金加入期間の全てではなく、婚姻期間だけです。
年金分割制度には、夫婦の合意によって厚生年金を分割できる「合意分割」と、合意がなくても年金事務所に申請することにより厚生年金の2分の1を自動的に分割できる「3号分割」があります。
なお、合意分割では、年金の分割をする方(標準報酬総額が多い方)を「第1号改定者」、年金の分割を受ける方(標準報酬総額が少ない方)を「第2号改定者」と呼び、3号分割では第2号被保険者を「特定被保険者」、第3号被保険者を「被扶養配偶者」と呼びます。
合意分割では、年金を分割する按分割合は一定の範囲で自由に決めることができます。上限は2分の1となり、下限は分割前の第2号改定者(年金の分割を受ける方)の対象期間標準報酬総額を分割前の当事者双方の対象期間標準報酬総額の合計額で割った値となります。分割対象となる期間は、原則として婚姻していた期間です。
(例)夫の対象期間標準報酬総額が7,000万円、妻の対象期間標準報酬総額が3,000万円の場合 3,000万円÷(7,000万円+3,000万円)=0.3となり、按分割合は0.3~0.5(30%~50%)の範囲内で定めることになります。この按分割合の上限、下限は「年金分割のための情報通知書」に記載されています。 |
なお、婚姻期間中に第3号被保険者(第2号被保険者の被扶養配偶者)になっていた期間があった場合、合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされます。
3号分割は国民年金の第3号被保険者(第2号被保険者の被扶養配偶者)の請求により厚生年金の標準報酬額の半分が支払われる制度をいいます。合意分割とは違い、夫婦の話し合いの必要もなく、年金事務所に申請することによって2分の1を自動的に分割できます。
注意が必要なのは、3号分割で対象となる期間は平成20年(2008年)4月1日以降の婚姻していた期間のうち、第3号被保険者となっていた期間のみになります。そのため、平成20年(2008年)4月1日以前の第3号被保険者の期間は合意分割が必要になります。
年金分割は申請しないと受けられません
年金分割は離婚すれば自動的に分割されるわけではなく、また、夫婦間で年金分割について合意した(離婚協議書や離婚公正証書などを作成した)としても、それだけで自動的に分割されるわけでもありません。年金を分割するには、年金事務所などに年金分割の請求(標準報酬改定請求)手続きをする必要があります。年金分割(合意分割)の請求手続きまでの流れは以下になります。
離婚するにあたって、夫婦が婚姻期間中に厚生年金に加入している場合は、まずは年金事務所や共済組合に「年金分割のための情報通知書」を請求しましょう。離婚後に請求する場合は請求者とその相手方(元夫や元妻)に交付されますが、離婚前に請求した場合は請求者のみに交付されます。
なお、離婚前でまだ同居している場合には、相手に情報通知書を見られないように窓口での交付や郵送先を変更することもできます。年金分割のための情報提供請求後、おおよそ3週間から4週間で情報通知書が郵送されてきます。情報通知書が届いたら、以下の項目を確認しましょう。
第1号改定者(年金の分割をする方)と第2号改定者(年金の分割を受ける方)
必要書類 |
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※離婚後に請求する場合は、それぞれの戸籍謄本(婚姻期間がわかる戸籍謄本)が必要になります。
※その他必要なものはないか、事前に年金事務所などで確認しておきましょう。
「年金分割のための情報通知書」に記載されている按分割合の範囲内で、分割する割合を合意しましょう。合意ができない場合は、裁判所での手続き(調停・審判または按分割合に関する附帯処分)を利用することになります。
公証役場で公正証書の作成(または私署証書の認証)をする場合は、標準報酬改定請求書に公正証書(または認証を受けた私署証書)を添付して提出することで、第2号改定者(年金の分割を受ける方)が1人で年金分割の請求手続きを行うことができます。
なお、年金分割の合意を含んだ公正証書を作成する場合、年金事務所などへの手続き用として年金分割の合意部分のみを抜き出した「抄録謄本」を作成してもらうことができます(※)。
夫婦間で離婚協議書や合意書を作成する場合は、元夫婦2人(またはその代理人)が年金事務所などにそれらを直接持参して提出し、年金分割の請求手続きをする必要があります。
(※)「抄録謄本」を作成するメリットとは?
公正証書を作成する場合、大抵は年金分割の合意のほかに養育費や財産分与、慰謝料などの取り決めがあり、それらをまとめて離婚公正証書として作成するのが一般的です。そのため、公正証書には年金分割請求手続きに直接関係のない離婚条件(養育費、財産分与、慰謝料などの取り決め)などの情報も含まれています。こういった場合に、年金分割の合意部分のみを抜き出した「抄録謄本」を作成してもらい、これを年金事務所に提出することにより、手続きに直接関係のない離婚条件を見られなくて済むというメリットがあります。また、謄本作成費用も安く済みます。
離婚届を提出した後に、年金分割の請求(標準報酬改定請求)手続きを行いましょう。なお、被用者年金の一元化に伴い、厚生年金と共済年金の2つの年金がある場合でも、該当する機関(年金事務所や各共済組合等)のいずれか1つの窓口に請求すれば、まとめて処理されることになりました。
必要書類 |
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※その他必要なものはないか、事前に年金事務所などで確認しておきましょう。
年金分割請求権は、厚生労働大臣などに対する請求権になりますので、公法上の請求権ということになります。つまり、年金分割請求権は、夫(または妻)に対する請求権ではありませんので、夫(または妻)に対して放棄をするということはできません。
また、年金分割についての合意は留保しておきながら、離婚協議書や公正証書に清算条項(当事者間に債権債務がない旨を確認する条項)を定めてしまったとしても、後日、年金分割の請求はできるとされています。
もし夫婦間で、今後、年金分割(合意分割)の請求をしないという合意をしたいのであれば、「年金分割請求権を放棄する」「年金分割をしない」などの表現方法にするのではなく、「年金分割の調停及び審判の申立てをしない」などのように表現方法を工夫することが必要になります。
このような合意であれば、手続きに関する合意として有効とされています。それ以外の方法としては、相手方に年金分割のための情報通知書に記載されている「按分割合の下限」で合意してもらい、実質的には年金分割しないのと同じ効果になるようにするしかありません。
3号分割については、合意分割とは違い、そもそも当事者間での合意が必要ありませんので、年金分割の放棄に関するどのような合意をしたとしても、無意味なものになってしまいます。つまり、年金分割をしない合意をしたとしても、年金分割請求をすることができ、年金分割自体も有効になります。
ただし、夫婦間で年金分割をしない合意をしているにもかかわらず、年金分割請求をするわけですから、約束違反として損害賠償請求される可能性はあります。