公正証書の基礎知識(1)
最終更新日:2017/07/16
公正証書とは全国にある公証役場(公証人役場)において、元裁判官、元検事などの法律の専門家である公証人が、法律に従って作成する公文書です。
公証人が作成する公正証書の種類には様々なものがあり、その中で協議離婚に伴う合意内容に関する公正証書を「離婚給付等契約公正証書」といい、一般的には「離婚公正証書」と呼ばれます。
公正証書は「強制執行認諾条項」を付けるなど一定の要件を備えることで、お金に関する支払いの約束を守らなかったときは、裁判を経ることなく、直ちに相手方の給料や財産を差し押さえることができるというのが大きな特徴です。
そのため、長期に及ぶ養育費などの支払いがある場合や慰謝料などを分割で支払う約束がある場合は、離婚協議書を公正証書(正確にはその中の「執行証書」をいいます)にしておく方がメリットは大きくなります。
公正証書を作成するには公証人手数料などの費用が多少かかりますが、離婚後の生活を守るためにも、養育費などの支払いを取り決めした際は公正証書を作成することを強くお勧めします。
離婚公正証書は公証人に依頼することで作成できます。しかし、公証人に公正証書を作成してもらうといっても、公正証書にする内容までを公証人が決めてくれるわけではありません。
そのため、公正証書にする内容は当事者が正確に公証人に伝える必要があります。また、公正証書にする内容によっては、事前に必要となる書類(各種証明書・資料等)があり、それらを準備するまでに時間と手間がかかる場合があります。
なお、公正証書を作成するにはご夫婦双方の合意が必要ですので、夫婦のどちらかが一方的に作成することはできません。
離婚協議書と離婚公正証書は一体どこが違うのでしょうか。どちらも離婚に関する「契約書」という点では同じですが、離婚協議書と離婚公正証書の最大の違いは、その執行力にあります。
具体的にいうと、夫婦間で作成した離婚協議書などの私文書の場合、相手方がお金に関する支払いの約束を守らなかったときは、裁判を起こして裁判所の判決を得てから強制執行をすることになります。
それに対し、公正証書は「強制執行認諾条項」を付けるなど一定の要件を備えることで、調停調書や判決と同様の効力があり、お金に関する支払いの約束を守らなかったときは、裁判を経ることなく、直ちに相手方の給料や財産を差し押さえることができます。
また、公正証書は公文書ですので、私文書である離婚協議書より高い証明力・証拠力があるのも違いのひとつです。さらに、離婚協議書は夫婦間で作成するものですので、偽造・変造、あるいは紛失などの危険性がどうしても高くなりますが、公正証書の場合、公正証書原本は公証役場に原則20年間保管されますので、万が一紛失した場合は再交付することができますし、偽造・変造の危険性も極めて低いので、自身で保管する離婚協議書よりも安心です。
夫婦間で離婚に関する約束、特に長期に及ぶ養育費の支払いや慰謝料などを分割払いにする約束などをした場合は、前述した理由などから、公正証書を作成するべきではありますが、公正証書を作成すれば必ず約束した金額を支払ってもらえるかというと、残念ながら100%支払ってもらえるというわけではありません。
そもそも相手に差し押さえる財産や給料が無ければ、お金を取ることはできませんので、その意味では100%安心ではないということです。しかし、相手が経済的に支払える状態である場合、不払い防止策として現時点で一番有効なのは公正証書を作成することです。
公正証書を作成することにより、もし支払いが遅れたら財産や給料を差し押さえられてしまう、給料を差し押さえられたら勤め先に知られてしまうという強力な心理的圧力(プレッシャー)をかけることができますので、支払いが滞りなく続く可能性は高くなると予想されます。
以上のことから、まずは支払いが滞らないようにする対策として、公正証書を作成するようにしましょう。